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2006年07月23日

あわれ彼女は娼婦 [ 芝居 ]

「あわれ彼女は娼婦」
作:ジョン・フォード 演出:蜷川幸
出演:三上博史 深津絵里 谷原章介 石田太郎 立石凉子 梅沢昌代 高橋洋/たかお鷹 瑳川哲朗 他

ジョン・フォードは、シェークスピアと同時代の作家。
若い男女の悲恋ということで、「ロミオとジュリエット」に比較されることもあるそうだが、
今回の舞台装置と、2004年の蜷川版「ロミオとジュリエット」のセットが似ているのはそういうこともあってなのだろうか。

妹を愛してしまったと悩む兄ジョバンニ(三上博史)、兄の愛を受け入れる妹アナベラ(深津絵里)。喜びのうちにふたりはふたりだけの世界に突入してしまうのだが、そうこうしているうちにアナベラが妊娠(展開早い!)。その妊娠を隠すためにアナベラは、かねてから彼女に求婚していた貴族のソランゾ(谷原章介)と結婚(ここも展開早い)。ほどなくソランゾはアナベラの裏切りに気づき、更にお腹の子が兄ジョバンニの子であることを知り、ふたりを陥れるべく企てる…。

果たして愛しあう兄妹の運命は!?と思ってたら、ジョバンニがアナベラを殺害。何でやねん!とつっこむ隙もあたえないその手には、アナベラの心臓を串刺しにした剣が……!!
ジョバンニはソランゾを殺し、その場に居た多くの人間を殺し、最期はソランゾの家来の手にかかった。

暗くて、後味の悪い話でした。

しかしセットが美しかった。二階建ての外壁に並ぶ窓。窓が開き白いカーテンが風にそよぎ、斜めから光が入るその様は、見ていてうっとりしたものだった。

三上博史と深津絵里の演技が少し一本調子だったのと、展開が早いせいか、本当にふたりが愛しあっているのかなんなのか、あまり伝わってこなかったのが残念だった。
その代わり、映像で見る限り、一度たりともいい印象を持ったことがなかった谷原章介がとても良かった。その美しい立ち姿、気品ある佇まい、通った鼻筋。お芝居もとても上手でした。もっとたくさん舞台に出て欲しいです。というかですね、ジョバンニの役、谷原章介で良かったのでは?初めてこの配役を聞いたとき、三上博史の持つ暗い美しさとセクシーさから、近親相姦の兄にぴったりだと思いはしたものだったが、実際の物語のジョバンニ像は、アナベラが語るように、天使のように美しく、思慮深く、品行方正な青年。このような青年が妹を愛してしまったから苦悩し煩悶し、破滅に至る訳である。三上博史のジョバンニが、いかにも近親相姦に走りそうだと言ってはあまりにあまりだが、彼の持つ色気が逆にタブーを近づけている印象にもとれる。相手が妹なのにも関わらず愛してしまった苦悶ではなく、苦悶を得るために、進んで妹を愛したように見えてしまったと言っては過言だろうか?
谷原章介がソランゾ役で見せていたその美しさや気品を、そのままジョバンニ役に当てた方が自然ではなかったか?そして、年増女を弄んで捨て恨みを買い、金を力でアナベラの父に取り入ってその娘を得、妻の不貞に怒り狂い、その道ならぬ恋に復讐を企てたソランゾをこそ、三上博史にぴったりだと思ったのはわたしだけだったろうか?

観劇後、地元の串焼き屋で食事。
少し前にアナベラの串刺しの心臓を見てしまった我々の共通見解は、
「今日はハツは食えん」ということであった。