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「透明人間の蒸気(ゆげ)」[ 芝居 ]

「透明人間の蒸気(ゆげ)」
観劇日:3月27日(土) 劇場:新国立劇場中劇場
作・演出:野田秀樹
出演:宮沢りえ 阿部サダヲ 野田秀樹 高橋由美子 手塚とおる
有薗芳記 大沢健 秋山菜津子 六平直政 池谷のぶえ 他

宮沢りえの美しさこそがこの芝居のすべてだ、と言ってしまったらあんまりなので
さすがに大声じゃあ言えないけれど、そう言いたくなるほどに美しいりえちゃん。
光を纏ってきたのかと思うほどに輝いてた登場。そして涼風のようにさわやかにそよいだ第一声。
その場にいた誰もが求めていた存在がやってきて、そのあまりの感動に、一瞬で涙が出た。
いやー、正直、「北の国から」のシュウみたいな感じで出てきたらどうしようかと危惧しておったのですが。
杞憂でございました。

「二十世紀を千代に八千代に伝えよ」。太平洋戦争開戦の日におりた天皇からの勅命により、
二十世紀のうちに無くなってしまうであろう物(「みそカツ」とか、「風呂屋の番台」とか言ってた)が収集される。
そんな中、生きた人間として選ばれたろくでなしで詐欺師の透アキラ(阿部サダヲ)は、彼を保存する装置の事故により、姿を失い透明人間になる。
最早誰の目にも映らなくなったアキラの姿が、なぜか盲目の少女ヘレン・ケラ(宮沢りえ)にのみ見える。
文字通り「あなたしか見えない!」ケラは、透を「神様」と呼び慕う。
この二人の、まあ簡単に言えば悲恋を中心軸にして、黄泉の国や見せ物小屋の出し物など、野田らしい大忙しの展開で芝居は進んでいく。

戦前と戦後の間の違和感について、ものすごくストレートに訴える芝居だったと思う。
自分たちが失われまいとする神話の神々のあがきが印象的。
彼らが戻るべき黄泉の国の入り口(出口か?)が巨大な星条旗でふさがれている光景が胸に重い。

なんだかよくわからないまんまに、気付いたら泣いてしまっていたラスト。
久しぶりの野田の芝居(実は「パンドラの鐘」以来)は、すどーんと心に響いたのでした。